前から気になっていた、名作と名高い池田理代子作のオルフェウスの窓。ようやく読んだ。
これを読んで思った。池田理代子先生はバッドエンドが好きだ。でもバッドエンドと言い切れるほどバッドでもないのが特徴。
まえがきには、1987年11月に書かれた池田理代子先生の言葉が綴られていた。
27歳から33歳までに描いた作品で、これをきっかけにヨーロッパへの関心を強めたのだそう。
ネタバレあり。
あらすじ
ドイツ人で15歳の御曹司、ユリウスは性別を偽り、男子として音楽学校に通っている。
学校にはオルフェウスの窓というレンガで作られた古い窓があり、そこから外を眺め、初めて道を通った女性と恋に落ち、そして悲恋に終わるという伝説があった。
ユリウスは同い年で同じ学校に通うイザークという少年と窓を通して出会った。
そして同じく音楽学校で年上のクラウスという少年とも出会う。
母は妾だった。本妻は亡くなっている。
本妻の娘が2人いて、ユリウスの姉たちとして共に暮らしている。
そのうちの長女、マリア・バルバラがユリウスが18歳になったら隠し金庫を開けるように父から言われて鍵を預かっている。
ユリウスの性別を隠すため、医者を雇っていたが譲られるようになり、その上母に手出しをしたため、ユリウスは咄嗟に医者を殺してしまった。
罪の意識に苛まれるユリウス。
ある日、クラウスがロシア人で革命家だということを知る。本名はアレクセイ。クラウスの婚約者だと思っていた女性、アルラウネは、アレクセイの兄の婚約者だった。
追手に追われ、クラウスはロシアに戻ることに。ユリウスはついていきたいと願うが、置いて行かれてしまった。
その後、ユリウスのことを好いていた使用人、ゲルトルートという少女が犬に噛み殺され、母が過去の想い人と心中した。
ユリウスは使用人を殺した義姉、アネロッテを毒殺し、クラウスを追ってロシアへ渡った。
イザークはピアノの才能を見込まれウィーンへ行き、苦労するも大成功した。
苦労していた頃、酒場で出会った娼婦と再会し、結婚するも、教養のない妻に振り回され、戦争もあり何もかもを失った。
手が悪くなったイザークのため、憎い男に体を売って稼いできた妻にイザークは激しく怒り、離婚する。
後に妻が身籠っていたことを妻が亡くなる直前に知り、一人で育てることとなった。
一方、ユリウスはロシアで記憶喪失になり、レオニードという軍人に拘束されるが愛されるようになった。
その後、脱出してアレクセイと再会し、記憶がないながら再び恋に落ちた。
レオニードとアレクセイは敵対関係にあった。
ユリウスを愛していたレオニードは革命家と政府の大規模な対立が起きる前に、ロシアを離れるよう彼女に言った。
そのことをユリウスはアレクセイに伝えるも、アレクセイは拒否。
ユリウスはアレクセイとの子を身籠るが、ロシアとドイツが戦争を起こし、満足な食糧も得られなくなったため、アレクセイの生家で身を隠すことに。
アレクセイの祖母と執事に守られて平穏に暮らしていたユリウスだったが、匿っていることが民衆にバレ、食糧難の中、優雅に貴族の家で暮らしていることと、貴族のドイツ人ということもあって怒りを買ってしまった。
アレクセイが家に着いた時にはユリウスはいなくなり、祖母と執事は惨殺されていた。
ユリウスはレオニードの関係者に見つかり、アレクセイが隠れ家を用意したと嘘をつかれて過ごしていた。
アレクセイがユリウスの居場所を突き止め、老人の変装をして向かったが、そこにはアレクセイを銃殺するために軍人たちが待ち構えていた。
難なく軍人の目を誤魔化せたが、事実を知ったユリウスが隠れ家に向かってくるアレクセイを見つけ、来てはいけない!と叫んでしまった。
そしてその声で変装だとバレてしまい、アレクセイは蜂の巣となって川へ落ち、亡くなった。
ユリウスはショックで娘を死産。
まともな言葉も発することが出来なくなってしまった。
革命が進み、レオニードたちの立場が危うくなったため、レオニードはユリウスを妹と共にドイツへ亡命させた。
ユリウスはレオニードの妹と共に男装をして国境を超えた。
レオニードは自害。
実家に戻るも、精神が不安定なままのユリウス。
ドイツに戻ってきていたイザークと再会。
イザークは自分がもうまともに指が動かないため、ピアノが好きな息子を尊敬するピアニストに預けた。
イザークのことも認識できていなかったが、母校でイザークとピアノを弾き、存在を認めるようになった。
記憶を取り戻すため、ユリウスはバルバラたちと共に隠し金庫を開けに銀行へと向かうが、鍵が一致しないと言われた。
鍵はすり替えられていた。
本物の鍵は使用人のヤーコプという男が持っており、アネロッテのことが好きだったヤーコプは恨みからユリウスを待ち伏せし、川へ突き落として殺害した。ユリウスは殺される直前に記憶を取り戻した。
2人ともユリウスが女性であることは知らなかったが、後に知ることとなり、恋に落ちる。しかしユリウスはクラウスに恋し、イザークは失恋した。
ユリウスは財産を継ぐために男装をしていた。
感想
ユリウスが死ぬなんて。しかもモブで華のないヤーコプに殺されたことがショックだった。
ユリウスに子供ができたことは、Amazonのレビューでユリウスの娘に会いたいと言っている人や、検索結果で「ユリウスの赤ちゃん」と出てくることで先にネタバレされていたのだけど、まさか死産とは思わなかった。
ユリウスとイザークが結ばれてほしかった。結ばれたのはクラウスだったけど。
ドイツで再会したし、妻のロベルタは亡くなっているし、子持ちとはいえ結ばれればと。
魅力的な男性キャラクターが多数登場して、クラウスとイザークもかっこいいけれど、特に気に入ったのはレオニードとモーリッツだった。
色々と検索していると、レオニードは読者人気No. 1のように思える。
でも不覚にも最もときめいたのはモーリッツだった。モーリッツ大嫌いだったのに。
イザークの妹のフリデリーケを自分の欲望で死なせるし、その後もフリデリーケに似た娘と不倫して自分はとんずら。クズ。
似た娘は元々好きだった運命の人と心中したし、2人の命を奪ってる。なんて罪深いんだモーリッツ。
それなのにお金持ちで妻からは不倫を許されて深く愛され、子沢山。世の中の不条理を感じざるを得ない。
だけど雨の中、愛人に好きです!と言われてカッ!と目を見張るのがかっこよすぎた。
モーリッツのことを好きで婚約者で結婚までしたベッティーナ、嫌いだったなー。婚約者なんだから権利はあるんだけどさ。
しかも顔も可愛いんだけど強かな感じが。フリデリーケと結ばれて欲しかったよモーリッツ。
全然納得できない終わり方だったけど、途中まではすごく面白かった。やはり名作はベルばらだと思った。虚無感。
変装してるのにアレクセイの名前を叫んでしまうところとか、スパイに荷物が食糧であるという情報を伝えてしまうとか、ユリウスの迂闊さ加減にガッカリしたな。
あとイザークとダーヴィトがユリウスの死を全然悲しんでなくて素晴らしい青春だった!とか言ってるのが悲しかった。
ドイツ女と蔑まれるところがマリーアントワネットと重なった。
ラストは嫌な終わり方だったけど、音楽の素晴らしさが伝わってきたのは名作だった。